本の感想

生きるための本

絵本「にいさん」いせひでこ/兄ゴッホへの弟テオの想い

大人になり様々な憂いや孤独感に苛まれた時、子供の頃を振り返り問いかけることがないだろうか。いつからひとりになってしまったのかと。
本作は弟が兄と過ごした日々や想いを綴る。

ーぼくにはにいさんがいた。

懐かしい情景は輝くような黄色と冷えた青。風が渡り兄弟の声が響く。あの時のきみはどこへ行ってしまったのだろう。兄の孤独が胸に迫ってくる。

兄はヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。6人兄弟の長男。オランダの画家で〈ひまわり〉〈星月夜〉などの代表作がある。弟テオドロス・ヴァン・ゴッホ(通称テオ)は4つ下で次男。画商で精神的にも経済的にも兄を支えた。
ゴッホ(ヴィンセント)の人生は苦悩に満ちていた。37歳で亡くなるまでの10年間、画家としての活動し、短い期間に多くの作品を残している。生前は1枚〈赤い葡萄畑〉しか売れなかったと言われる(諸説あり)。
画廊に就職するが解雇され、牧師、書店員、牧師を志すも挫折、炭鉱で伝道活動を始めたり、職を転々とした。27歳で画家になることを決意する。35才の時、自ら耳を切り落とす。以後発作に苦しみながら入退院を繰り返し、37歳で腹部に銃創を負い、死亡する。自殺と見られる。
テオは兄を看取る。もともと体の弱かったテオは兄の死後、体調を崩し33歳で亡くなる。兄が亡くなって半年しか経っていない。
兄は弟に宛てて650通もの手紙を書いた。親兄弟と確執のあったヴィンセントの唯一の理解者がテオであった。


「にいさん」を呼ぶテオのあたたかく悲しい声が聞こてくるかのような絵本である。
2人の墓はオーヴェル=シュル=オワーズに並んで建てられている。

 

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おすすめ映画『永遠の扉 ゴッホの見た未来』

37歳で亡くなるゴッホを63歳のウィレム・デフォーが演じる。ゴッホが苦悩に満ちているから、若く見えなくても違和感なかった。

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映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』公式サイト|2020.6.3(水) DVDリリース